万年雪の大雪山を筆頭にビギナー向けの登山道が整備された山の連なる北海道。
中でも、道東の山々はルート標高差も300〜700mほどで、初心者でも登りやすいと言われています。中にはお子さま連れやペットを連れて登る人も。
標高わずか1000m前後でありながら、本州の2000m以上の峰々でしか観ることのできない高山植物が出迎え、時には雲海に出逢い、オホーツクの海はもちろん遥か北方領土まで見渡せるのが道東の山の特徴。
道東の初心者でも登りやすい山は以下の8つがあります。
いずれも絶景で楽しい山ですので、道東の登山の参考にしてみてください!
はるか国後まで見渡せる道東随一の超絶景スポット~武佐岳
「武佐(むさ)」とは、アイヌ語で「他の山の頭をなでる」あるいは「イラクサ(モサ)」の意味。
なだらかな双耳峰が周囲の山を従えている様は、まさに他の山の頭をなでてあげているように見えます。包容力のある山の姿から、中標津町民ならずとも納得させられる語源です。
道東随一の絶景スポットとして知られる「開陽台」をして、「当施設は330度の大パノラマが楽しめます。パノラマでない残り30度は、あの美しい武佐岳です」と言わしめるほどの美しい山容を誇り、その「開陽台」さえも見下ろす景観の中に取り込む絶景中の絶景スポットが武佐岳です。
根室半島と知床半島に囲まれたオホーツクの海から徐々に高度を上げる山並みの中に静かに佇んでいます。
北海道百名山にも選ばれるほどの美しい山容は、中標津町民の心の拠り所として町の歌や学校の校歌にも登場。
古くから地元民に愛され、登山道の整備はもちろん「憩清荘」という避難小屋も設置されています(近くに水場もありますが、飲めるかは不明です)。
多少キツいところもありますが、危険な箇所はなく、初心者も安心です。
6月第二日曜日の山開きから、地元の登山愛好者はもちろん、北海道内外から最高のロケーションを求めて多くの登山者が訪れます。
7〜8月にかけては地域特産物の一つである蕎麦の花が満開となり、武佐岳登山口へと誘います。
キバナシャクナゲやエゾムラサキツツジ、コケモモ・アイヌタチツボスミレ、6月の山開きから間もない時期にはチシマザクラの開花を目にすることもあります。
頂上から望む「根釧台地の格子状防風林」や「野付半島」、はるかオホーツクの「国後島」は息を呑む美しさです。
道東オホーツク海域のすべての景観を一望するといっても過言ではない武佐岳はぜひ一度は登っていただきたい山といえます。
山名 | 武佐岳 |
標高 | 1005.2m |
ルート標高差 | 671m |
平均所要時間 | 登り2.5時間・下り2時間 |
問い合わせ | 0153-73-3111(中標津町経済振興課) |
知床連山や摩周湖・斜里岳の展望が圧倒的に美しい~標津岳
登山口が養老牛温泉という時点ですでに魅力的な標津岳。
北海道随一の泉質と接客のよさで定評のある養老牛温泉から、ダートな林道を6㎞ほど進んだ地点が登山口。
平坦な作業道跡から始まる登山道は少しずつ傾斜を増し、清水沢と呼ばれる水場を経てやがて急斜面へ。
養老牛温泉とのセットで訪れる方も多く、山頂からの眺望は武佐岳に勝るとも劣らないパノラマが広がります。
日本百名山の斜里岳の撮影スポットとしても知られ、他の山では見ることのできない斜里岳の全容を目の当たりにしながら爽やかな登山が楽しめるスポットです。
本来なら疲労にあえぐところですが、周囲を覆うダケカンバの純林があまりにも爽やかすぎて逆に元気が出てくるという方も多いそうです。
純林を抜けると眼前に迫る知床連山や摩周湖・斜里岳。
武佐岳よりほんの少し高い1061mの山頂からくっきりとこれらの山々を眺めることができます。ダイナミックな眺望を堪能しながらおにぎりを頬張るのもよいでしょう。
なお登山口が非常にわかりづらくGoogle Mapだと間違った経路になるため、養老牛温泉にあるこちらの看板のとおりに行くようにしましょう。
山名 | 標津岳 |
標高 | 1061m |
ルート標高差 | 739m |
平均所要時間 | 登り3時間・下り2.5時間 |
問い合わせ | 0153-73-3111(中標津町経済振興課) |
屈斜路湖を見下ろすジャスト1000mのお手軽トレッキング~藻琴山
標高が1,000mジャストであることや、わずか1時間ほどで登れる手軽さから初心者や家族連れに人気の山で、今回紹介した中では最もお手軽かもしれません。
お手軽ですが、屈斜路湖を眼下に見下ろし、オホーツクを眺めながら、そして屏風岩付近でのチシマフウロやハクサンイチゲ・キリンソウ・コケモモなどのお花畑に魅了されながらの軽トレッキングはとても魅力的です。
初夏の新緑の瑞々しさ、秋の紅葉の豪奢な彩りはもちろん、タイミングが合えば屈斜路湖を覆う雲海を目にすることもあり、登山の手軽さからは想像できないほどの幸福感を味わえる山です。
藻琴山の山名は藻琴川の源流から来ていますが、アイヌ語の「トエトク・シペ(沼の奥にある山)」がそもそもの由来といわれています。
登山ルートは基本はハイランド小清水725からの「スカイライン遊歩道コース」と、「銀嶺水コース」の2ルートが、物足りない方はどちらも回る「周回コース」があります。
銀嶺水コースは片道1キロと非常に短いコースで30分程度で山頂まで行くことができ、周回コースは1周3時間40分となります。
下山後にスタート地点であるハイランド小清水725でラーメンや、ご当地の「とろり」で締めてみてはいかがでしょうか?(※ハイランド小清水725は5〜10月のみの営業となります)
山名 | 藻琴山 |
標高 | 1000m |
ルート標高差 | 275m(スカイライン遊歩道コース) 195m(銀嶺水コース) 275m(周回コース) |
平均所要時間 | 登り0.5~1時間 下り1時間 周回コースは3時間40分 |
問い合わせ | 0152-74-4323(NPO法人オホーツク大空町観光協会) 0152-62-4481(小清水町産業振興課) 藻琴山パンフレット |
摩周ブルーを眼下に見下ろしながら爽やかトレッキング~摩周岳
「摩周」という神秘的な日本語の趣もさることながら、アイヌ語で「カムイヌプリ(神の山)」とまで称されてきた摩周岳。
アイヌ語での「摩周」は「マシウ(鍋のような湖に影が泳ぐように見える)」を意味します。
摩周ブルーの湖面に映る影は何だったのでしょう?
興味をそそられる言い伝えです。
その摩周ブルーを眼下に見下ろしながら、ほぼ平坦に湖を回り込むような登山道。開かれた景観を楽しみながら登れる数少ない山の一つです。
平坦なルートに少しずつ傾斜が加わり湖から離れていくと黄金の草原。やがてお隣りの西別岳への分岐ルートを過ぎて最後の急登が待ち構えます。
チシマザクラやウコンウツギ、足元に咲くクロユリやクロバナハンショウヅル・チシマフウロ・チシマセンブリらに励まされながらもうひと頑張りすると頂上です。
頂上では、岩にしがみつくようにウルップ草やイワキンバイやイワギキョウが咲いています。
急峻な眼下に見下ろす摩周ブルー、標津岳や武佐岳と斜里岳、さらに知床の山々の遠望など申し分のない絶景が広がる神の山山頂。
山名 | 摩周岳 |
標高 | 857m |
ルート標高差 | 341m |
平均所要時間 | 登り3時間 下り2.5時間 |
問い合わせ | 015-483-4100(川湯ビジターセンター) |
百花繚乱の花畑に癒され励まされ「がまん坂」~西別岳
隣接する摩周岳が眺望を楽しみながらの登山であることに対し、百花繚乱のお花畑を楽しみながら登れるのが西別岳。
摩周岳方面からは分岐点からほんの1時間ほど、尾根筋のためさしたる起伏もなく頂上へたどり着けます。
一方の西別小屋ルートは、遊歩道感覚で鳥や花に囲まれながら歩けるのが特徴。
こちらも標高差465mで平均所要時間は1.5時間ほどです。
カラマツの森を抜けてウグイスの声が鳴り響く「うぐいす谷」を通り過ぎ、視界が開けてくると徐々にお花畑が広がっていきます。
そして「がまん坂」と呼ばれる上り坂。
急登ではありませんが、延々40分ほどまっすぐに登るため結構キツいとのことで命名されたようです。
そのキツさを癒す処方箋も用意されているのが道東自然のよいところ。
第一ピークのリスケ山への道中、エゾツツジやヨツバシオガマ、イワブクロ・ミヤマオダマキ・チシマワレモコウなどが「頑張れ頑張れ」と百花繚乱のエールを贈ってくれます。
もちろん山頂からの眺望も申し分なし。
足元に咲く可憐な花々と、カムイヌプリとのコントラストは最高の被写体となるでしょう。
山名の由来は、アイヌ語で「ヌー・ウシ・ベツ(魚・多い・川)」あるいは「ニ・ウシ・ベツ(木・多い・川)」
手つかずの自然の豊かさ、その恩恵にあずかってきた人の歴史を感じさせます。
人はいつも、自然に励まされ生かされてきたと再認識できる山です。
なお、先に紹介した摩周岳の縦走コースもあるので体力に余力のある方は縦走してみるのもよいでしょう。
山名 | 西別岳 |
標高 | 800m |
ルート標高差(西別小屋ルート) | 465m |
平均所要時間(西別小屋ルート) | 登り1.5時間・下り1時間 |
問い合わせ | 015-483-4100(川湯ビジターセンター) |
噴煙を上げ続ける火口を見渡せる日本百名山~雌阿寒岳
初心者向けの山の中ではややキツいですが、他にはない絶景が見られるのが雌阿寒岳(めあかんだけ)です。
日本百名山の一つであり、今なお生命力豊かな噴煙を上げ続け、オンネトーの野中温泉や阿寒湖温泉街など、北海道を代表する名泉が麓に待ち構えていることもあって、登山客の絶えない人気の山です。
阿寒湖の南西部にそびえ、北海道三大秘湖の一つである神秘的なオンネトーを見守るように佇みます。
オンネトーの静かな湖面に映る阿寒富士とのツーショットは、多くの観光パンフレットに用いられてきた代名詞的な構図。訪れる人が必ずといっていいほどシャッターを切ります。
仰ぐ角度によって山の形容が異なるのは、約2万前の火山活動によってできた10つの山頂を持つ複合火山ならでは。
かつて夫婦関係にあったという、阿寒湖を挟んで佇む雄阿寒岳が浮気をしたとかで、今なお怒りが収まらないのかも知れません。
ルートはオンネトーコース・雌阿寒温泉(野中温泉)コース・阿寒湖畔コースの3通りで、雌阿寒温泉(野中温泉)コースが急ですが最も早く登れます。
いずれも鬱蒼としたアカエゾマツの原生林、針広混交林からの入山。他の山よりも、北国の手つかずの自然に圧倒されます。
マイヅルソウやゴゼンタチバナ、ハクサンシャクナゲなどを見遣りながらやがてハイマツ帯、そして6合目あたりからイソツツジやマルバシモツケなどの高山性植物が出迎えてくれます。
登るほどに緑が減り、活火山らしい赤茶けたガレ場へと変貌していきますが、却って健気に花を咲かせる高山植物の姿が目立つようになります。
雌阿寒岳の固有種メアカンフスマ、そしてメアカンキンバイは花好きの方には人気です。
イワブクロやヒメイワタデ・ガンコウランも、そこここに存在を主張しています。
地球の鼓動のごとく噴気を立ち上げるポンマチネシリ火口と赤沼、剣が峰から望む
阿寒湖と雄阿寒岳の大パノラマは圧巻。
地球創造の歴史をさかのぼり、神様が天地創造した時代に辿り着いたような感さえします。
そして目の前にそびえ立つのは阿寒富士。こちらも1時間ほどで縦走できます。
手つかずの原生林と固有種、大パノラマと天地創造の火口、そしてご褒美の温泉。
これだけの体験ができる山は雌阿寒岳をおいて他にありません。
ちなみに、雌阿寒岳は素晴らしい山ですが、岩場も多く標高もやや高いので急な天気の変化や気温の低下も考えられるので、夏であってもしっかりとした装備で登るようにしてください。
山名 | 雌阿寒岳 |
標高 | 1499m |
ルート標高差 | オンネトーコース 854m 野中温泉コース 794m 阿寒湖畔コース 764m |
平均所要時間 | オンネトーコース 登り3時間 下り2時間 野中温泉コース 登り2時間 下り1.5時間 阿寒湖畔コース 登り3時間 下り2時間 |
問い合わせ | 0156-25-6131(NPO法人あしょろ観光協会) |
「ポコポコ」ポッケと裏雌阿寒のロケーション~
阿寒湖畔スキー場が雪のない季節に探勝路として開放され、歩きやすさと展望のよさが特徴的な白湯山。
阿寒湖温泉街からほど近く駐車場も広いため多くのハイカーが訪れます。
登りながら常に阿寒湖と雄阿寒岳を目にすることができるほどの視界の広さはスキー場ならでは。
ルートの整備も申し分なく、最初のゲレンデ部分は多少つらいものの、登山というよりはハイキング気分で手軽に登れる山です。
見どころはポッケと呼ばれる泥火山。探勝ルートのあちこちで、「ボコッボコッ……」と地面を叩くような音を立てながら噴気を上げています。
温泉街に見られる地獄谷のミニチュア版といった感じで、発する水蒸気の温度は94℃にもなるとか。
そのほんの少し離れた場所でもスミレやヒメハギなどの花が楽しめるのが白湯山の自然の豊かさ。他にもエゾオオサクラソウやニリンソウ、ヒメイチゲなどの花を見ることが出来ます。
頂上の少し手前にはウッドデッキの展望台が設けられ、阿寒湖と雄阿寒岳の眺望はもちろん、裏側からの雌阿寒岳という珍しいロケ―ションも。
手軽に登れて、ポッケと裏雌阿寒という稀有な出逢いも楽しめる大パノラマの山、白湯山に登らずして阿寒湖を語ることはできないでしょう。
山名 | 白湯山 |
標高 | 916m |
ルート標高差 | 318m |
平均所要時間 | 登り1.5時間 下り1時間 |
問い合わせ | 0154-67-4100(阿寒湖畔エコミュージアムセンタ―) |
見晴らし抜群の稜線が続く~辺計礼山
阿寒湖周辺の穴場的展望スポットが辺計礼(ペケレ)山です。
ペケレとは、アイヌ語で「明るい・清らか・光」を意味します。その名の通り展望が効くのが特徴。
阿寒湖温泉と川湯温泉を繋ぐ阿寒湖横断道路沿いにある「ペケレ山登山口」の標識は小さくて見落としそうですが、それが却って穴場効果をもたらしているようです。
入り口にはエゾシカゲートがあり、そこから1.5キロほど進むと登山口のある駐車場があります。
行き交う人の少ない登山道はアカエゾマツやトドマツの造林地から始まり、笹原のところどころにハクサンチドリやベニバナイチヤクソウや、イブキジャコウソウ・コメツツジ・コヨウラクツツジの可憐な花々を見遣りながらやがてミズナラ・ダケカンバの広葉樹林へと変わります。
広葉樹林を抜けたら、もう頂上は目の前。
短時間の登山で辿り着く一等三角点の頂上からは、屈斜路カルデラ・摩周カルデラ、根釧台地に雌阿寒岳・雄阿寒岳の大パノラマ風景をじっくり堪能できます。
鬱蒼とした森はなく、スタートからゴールまで終始明るいのが特徴で、初心者でも安心して登れるのが嬉しいです。
山名 | ペケレ山 |
標高 | 732.3m |
ルート標高差 | 482m |
平均所要時間 | 登り1.5時間 下り1時間 |
問い合わせ | 015-483-4100(川湯ビジターセンター) |